APRIL TRUE/エイプリルトゥルー 第2話/全7話  

APRIL TRUE/エイプリルトゥルー 第2話/全7話  

第1話:http://coney.sblo.jp/archives/20090301-1.html

    APRIL TRUE ~エイプリルトゥルー~ 第2話/全7話      
                              古新 舜

――「高橋春珂って、卒業したら東京に引っ越すんだってよ」
 六年生の二学期が始まった頃、私は学校でそんなことを耳にするのだった。小学生の私にとっては、こんな意外な出来事は、テレビで見ているニュースのように縁遠いものだと思っていた。それが数日経ち、本当に起きる現実だと受け止めたとき、胸が締め付けられるほどの息苦しさを覚えていた。
 春珂は私と同じクラスの生徒で、この小さな田舎町の、学年にクラスが一つしかないような学校で数名の同級生のうちの一人だった。性格は私とは正反対で、読書好きの私にちょっかいを出しては、いつも田んぼを駆け回っているようなやんちゃ坊主であった。家が隣同士ってこともあり、小さい頃から毎日のように一緒に学校まで通っていたが、とりわけ何かを話すわけでもなく、私は黙々と道を歩いていた記憶だけしかなかった。どこまでも変わらない景色を三十分かけて学校に向かう途中、彼は人の家の塀を平均台のように渡ったり、田んぼのあぜ道を反復横跳びのようにして跳ね回っていたが、私はそんな彼を取り分け構うことはしなかった。彼が嫌いということは全くなく、私にとって春珂は単なる一同級生に過ぎなかったのである。
 そんな彼をいつしか、そう、五年生の雪桜が咲いた冬の時期――彼の母親が長年の病で亡くなってから、彼に対して今までとは違った気持ちを持つようになった。それまで子供っぽくへらへらとしか見えなかった彼が夏休みの終わった頃からふと笑わなくなったのである。母親の葬式で彼が浮かべた表情を見て私は、今まで彼が見せていた明るい表情は、もしかしたら長らく病に臥せっていた母親に甘えられない彼の裏腹な感情ではないかとうっすら気づいたとき、同じ子供でありながら自分というものを使い分けて過ごしていた彼の妙に大人らしい部分に惹かれ――それからというもの、ずっと心のうちに彼を想うようになってしまったのだった。

��当小説に関するコメントは三月七日、全話終了後にお願いします)

coney

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