APRIL TRUE/エイプリルトゥルー 第1話/全7話  

APRIL TRUE/エイプリルトゥルー 第1話/全7話  

    APRIL TRUE ~エイプリルトゥルー~ 第1話/全7話      
                              古新 舜

 この土地の桜は嘘つきである。雪が降り積もる中、山間を背景にそっとピンク色の彩りを落とすのである。この地域ではよく知られた「冬桜」――春だけでなく、冬にも咲く変わった樹木である。雪景色に咲くその桜を町の人たちはこよなく愛し、町のシンボルとして崇めてきたが、小さい頃から私は、二回も咲くこの桜の奔放な姿にどことなく自分と似たような感じを覚えていた。
 冬桜は私の家の庭にも一本ひっそりとたたずんでいる。私には一回り以上年の離れた姉がいるのだが、彼女もこの桜の大ファンであった。年齢差のせいもあり(いや、半分以上は性格のせいだと思うが)いつも私は操り人形のように扱われていた。姉の代わりに買い物に行かされたり、掃除をさせられたり。「家の手伝いをした分、大人になったら倍になって良いことが返ってくるわよ」私はそれが姉の都合に合わせた出任せとも知らず、そんな素晴らしいことならばと、へらへら言われるがまま動いていた。小学生の私はそんなちょっと間の抜けた女の子だったのだ。
 小学五年生になって間もなく、私はそんな姉から突然、「好きな人はいる?」と尋ねられた。今までなら「あんた、学校でちゃんとやってるの?」、「あの掃除のおばちゃんまだ学校にいるの?」とたわいもない質問しかしてこなかった姉だが、そんな質問を急に振られ、私は小っ恥ずかしくなった。あの時なぜそんなことを尋ねたかはよく判らなかったが、今になると、きっと自分の恋に悩んでいたのだろうと思える。そして、五年生になった私が恋の話を持ちかけられるような“同性”に見えたのかもしれない。私は周りの子よりも少し幼いところがあり、十一歳になっていたそのときでも、答えとしてすぐに異性のことは思い浮かばず「校長先生が好き」などと答えてしまっていた。姉は素っ頓狂な顔を見せると、私の頭を軽く叩いて、口元を歪ませ向こうに行ってしまった。

��当小説に関するコメントは三月七日、全話終了後にお願いします)

coney

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