3月 2009Archives

3つの幸せ

いつもながらバタバタでしたが、
今週末は予定がたっぷりでいつのまにか今に至っています。

その間、いろんな幸せに触れました。
すぐに出るので、帰りましたら描きますが、
��1)幸せ物語進捗

音楽を付け始めました。

アニメを付け始めました。

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エンドクレジットを作り始めました。

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最終仕上げです!

ーー

戻りました! ツヅキです。

��2)友人の結婚式に出向かせて頂きました。
プライベートでパーティーを楽しませて頂き、
大変ほっとしました。

新婦さんがお父様に連れられて、お召し替えされるところが、
とても感動致しました。

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��3)
昨日は亀田氏の「映画製作のファイナンスとリクープ」の最終回でした。
大変良くしていた頂いている四宮さんがゲストで登場。
デジハリを通じて、いろんな授業を聴講させてもらい、
いろんな出会いがあることに心より感謝したいと思います。

亀田さんも四宮さんも、クリエイターに大変ご理解のある方々、
そんな授業を受けられてとても幸せでした。

亀田卓先生の「文化に投資する時代」
発刊されましたので、ぜひ、読んでみてください。

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「鷹の爪」、「東京オンリーピック」などを手がけた名プロデューサーによる
デジハリの授業さながら、
大変分かりやすい内容になっております。
http://www.asahipress.com/bookdetail_norm/author/9784255004594/

日本の映画製作の最先端の仕組みが理解できると思います。
業界云々関わらず、FLOGMANやスキージャンプペアなど、
お好きな方は、とても親近感があると思いますよ!

APRIL TRUE/エイプリルトゥルー 最終話/全7話

第1話:http://coney.sblo.jp/archives/20090301-1.html
第2話:http://coney.sblo.jp/archives/20090302-1.html
第3話:http://coney.sblo.jp/archives/20090303-1.html
第4話:http://coney.sblo.jp/archives/20090304-1.html
第5話:http://coney.sblo.jp/archives/20090305-1.html
第6話:http://coney.sblo.jp/archives/20090306-1.html

    APRIL TRUE ~エイプリルトゥルー~ 最終話/全7話      
                              古新 舜

「すげー、おまえがそんなこと言うなんて思わなかったぜ」「何がおかしいのよ……」好きと伝えたときよりも強い恥ずかしさがこみ上げてくる。
「おまえもそんな嘘を付けるようになったか」
「何よ嘘って」
「エイプリルフールだろ?」彼は私の頭を指差す。壁掛け時計は0:10を指している。あ、過ぎてたんだ……。
「違う、違うの、だって昨日はエイプリルトゥルーって言って、本当のことを伝える日だったんだってば」私はヤケになり、自分の言っていることを整理できないまま、とにかく気持ちをしっかり分かってほしく、無我夢中でそのことを伝えようとした。
「行かないよ」「え?」
「東京には行かないよ」
 にんまりと笑う春珂の顔を見て、私は今日がエイプリルフールであることを思い起こす。
「こんなときに、エイプリルフールなんて言わないでよ!」
 怒る私を見て、春珂は一瞬キョトンとしたが、やれやれといった表情で私の腕を無理矢理つかんで、取り乱した私を二階まで連れていく。私は何が起きているのか分からないまま階段を上りきり、彼は真ん前の部屋の扉を開けた。と、そこには散らかった子供部屋が姿を見せた。
「な、こんなんじゃ引っ越せねーだろ。行くのは父ちゃんだけだ。俺は婆ちゃんと一緒に残るんだよ」
 安堵で力が一気に抜けた――。
��まるでこの現実がエイプリルフールだわ)
 脱力した私は、薄れかけた意識で彼の部屋を見た。机の上にはランドセルを背負った小さい私と春珂の写真が立てかけられていた。
「おまえ覚えてっか? 入学式のとき、うちの母さんが撮った写真だよ」
 うちの冬桜が満開の下、ブスッとしている春珂と能面のような顔をした私がいた。それを手に取ると、不意に春珂が私の背中にもたれかかってきた。
「中学入ったら、同じ写真撮ろうぜ。今度は笑った顔しよーな」
 硬直したまま私は部屋の窓から、家の方を見下ろした。縁側には予想通りにんまりとした姉の姿があった。

 今思えば、一日早い姉の嘘は『エイプリルトゥルー』ではなくて『マーチトゥルー』であるべきだと思うが、そんな英語の解釈よりもそれを自然と受け入れた、私の純粋さを心より讃えたいと思う。
 そして二十四歳、三月最後の日の今日、私はこれからもう一度エイプリルトゥルーを使ってみることにする。庭の冬桜を見ながら彼のもとへと旅立つのだ。

                          FIN

APRIL TRUE/エイプリルトゥルー 第6話/全7話

第1話:http://coney.sblo.jp/archives/20090301-1.html
第2話:http://coney.sblo.jp/archives/20090302-1.html
第3話:http://coney.sblo.jp/archives/20090303-1.html
第4話:http://coney.sblo.jp/archives/20090304-1.html
第5話:http://coney.sblo.jp/archives/20090305-1.html

    APRIL TRUE ~エイプリルトゥルー~ 第6話/全7話      
                              古新 舜

「母さん、冬に生まれたから冬美って言うんだ。俺は春に生まれたから春珂。二人して誕生日に桜が祝ってくれてるね、ってよく言ってたよ」はにかんだ表情に、久しく見ていなかった彼の素顔を見ることができた。それから、彼とたわいもない話をした。学校での出来事やこの土地のこと、小さい頃からずっと一緒だった訳だから、話せばそれは全て彼との共通の出来事であり、そんな二人の短い歴史を振り返りながら延々と喋り続けた。合間、家のことが少し気になったが、きっと姉がうまくやってくれてるのだろうと、出かけ際の親指を信じることにした。
「あのさ……冬桜ってなんで冬に咲くか知ってるか」
「さあ、なんでだろ」
「あの桜はおっちょこちょいなんだよ、おまえみたいに」
「何それ――」思いがけない内容に思わず笑ってしまった。
「おまえおっちょこちょいだよ」
「だから何よ」
「亮介のことが好きだったんだろ……」「えっ?」
 予想外の言葉に少し戸惑う。亮介というのは、いつも春珂と一緒にいる男の子のことだ。雰囲気はおっとりしているけども、勉強も運動もよくできる男の子のことだった。
「おまえ、元気なかったからさ、三学期ずっと」ドキッとさせられた。何も話しかけてくれなかった彼は、私のことをずっと見ていてくれたんだ。そんな風に思うと、とても温かいものがこみ上げてくる。
 私は今の時間が気になった。まだ二十四時を越えてないよね。エイプリルトゥルー終わってないよね……。ううん、たとえ三月三十一日が過ぎていたとしても、今の私にはもう突き進むしかない。今だったら、今の私だったら――。
「あのさ、私……」突然の大きな声に彼は思わず目を丸くした。
「わたし、春珂君のことがずっと好きだった」
 思い切って発した言葉は告白というよりも押し上げるように吐き出された気持ちの塊だった。彼は驚いた表情を見せる。また先ほどの長く続いた沈黙の時間がちゃぶ台の上にのしかかる。と思いきや、沈黙は私に負けないくらいの大きな笑い声ですぐにかき消される。

��当小説に関するコメントは三月七日、全話終了後にお願いします)

APRIL TRUE/エイプリルトゥルー 第5話/全7話

第1話:http://coney.sblo.jp/archives/20090301-1.html
第2話:http://coney.sblo.jp/archives/20090302-1.html
第3話:http://coney.sblo.jp/archives/20090303-1.html
第4話:http://coney.sblo.jp/archives/20090304-1.html

    APRIL TRUE ~エイプリルトゥルー~ 第5話/全7話      
                              古新 舜

 玄関に立ち、何を口実に彼に話しかけよう、チャイムの「♪」に触れかかる人差し指が同極の磁石のような振幅運動をする。やっぱりだめだ、後少しの勇気を振り絞ることができず、後ずさりをしかけた。そのとき、突然ドアが開き、大きな陰が私の前を立ちはだかった。春珂の父親――彼をこんなにも間近で見るのは初めてだった。天から大きな石で押さえつけられるかのような圧迫感――金縛りのような対峙に私は口を開けることもできずにいた。「こんばんは。隣のお嬢ちゃんだよね」その姿とは真逆の優しい声に、私を締め付けていたものがゆっくりとほどけていく。「春珂、お客さんだよ」そういうと、父親は私の横を通って、視界から消えていった。その背中は一瞬だけ春珂の姿と似ているように思えた。「どうしたんだよ」振り返ると、そこには春珂がいた。私は今自分がどうしてここにいるかという理由が頭から吹っ飛んでいた。「あのぉー」と発するとそれにかぶさるようにして「あがれよ」と春珂は言った。私はその言葉に促されるまま、家の中に入っていった。
 家の中には、段ボールが山積みだった。「お父さんは?」と尋ねると「最後の挨拶に出かけた、朝まで帰ってこないって」とぶっきらぼうに返された。彼はそのまま二階にあがろうとしたが、三段くらい上ったところでそのまま階下まで下り、「俺の部屋汚いから、下で」と私の顔を見ることなく居間に通した。ひっそりとした居間には、ちゃぶ台と仏壇だけがひっそり置かれている。隣で婆ちゃんが寝ているから静かに、春珂は私にそう伝えた。
 春珂と私――扇形の面積がテストの答えで出てくるような奇麗な数字にはならない微妙な鈍角の位置で俯き合う。何の言葉も存在しない重たい時間が中央のちゃぶ台にデンとあぐらをかいて座っているようだった。こうして彼と二人でいることなんて、小さい頃から何度も、何遍もあったはずなのに、今日ほど彼を見つめるのが恥ずかしい時間はなかった。
――「おまえの母ちゃんってどんな感じだ?」突拍子もない質問で重たい沈黙が突き破られる。私はその質問にすがるようにして、すぐさま答えを発した。
「私の母は……いつも笑っているような人。とにかく前向きに考えるような……」彼はちょっと微笑むと、不意に庭の方に顔を向けた。彼の後ろには、仏壇に置かれた灰色がかった若い女性の顔が見える。輪郭と口元が彼にそっくりな母親の遺影だ。「母さん、よくこの縁側からおまえんとこの冬桜観てたよ」「えっ?」窓際まで歩いて行き、ここから本当にうちの樹が見えるかを確認してみる。暗がりの中、目を凝らしてみるとピンク色の小さなつぶつぶが星空のように輝いて見える。――今年もいつの間にか咲いてたんだ。

��当小説に関するコメントは三月七日、全話終了後にお願いします)

閑話~幸せ物語アラヘン完了~

「April True」をご覧頂きありがとうございます。
毎日、多数アクセス頂いており、
自分自身が創作活動の根本であった執筆活動の一部を
こうしていろんな方に観て頂けることは、
大変光栄だと思います。

物を描くというのは、自分らしいとよく思います。
昨晩、凄くステキな方々と夕食をご一緒しましたが、
なぜ映画監督を目指したのかと訊かれて、
一番自分らしい生き方だからと答えました。

生きることはいろんな道を模索しながらだと思いますが、
僕自身もこの道にこれたのは、
裏切りだとか、だまされるとか、借金とか、
そんなことがあっても生きていたいと思う気持ちがあって、
ようやく自分らしくなれたと思います。

小学校や大学では、全く自分らしくなかったのに、
ふとしたきっかけで生きられていることは、
別れも含めたいろんな出会いに感謝をしたいと強く思います。

幸せ物語の劇中より、キャプチャーしました。

撮影監督さんと打ち合わせをして、大変好評価でした。
私も大変満足の行く作品になりそうです。
事務所、スタッフ、エキストラの方々に敬意と感謝を表します。

小説の閑話休憩として、静止画三枚、ご報告します。
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APRIL TRUE/エイプリルトゥルー 第4話/全7話  

第1話:http://coney.sblo.jp/archives/20090301-1.html
第2話:http://coney.sblo.jp/archives/20090302-1.html
第3話:http://coney.sblo.jp/archives/20090303-1.html

    APRIL TRUE ~エイプリルトゥルー~ 第4話/全7話      
                              古新 舜

「お隣さん、引っ越しするのかしらね。家の前を通ると忙しなくしているのよね」稲妻が頭からつま先まで貫通するような感覚だった。私は立ち尽くし、それを否定しようとする――と思いきや、胸に詰まった想いを吐き出すかのように、自然と姉にすがりついてしまった。「あたし、どうしたらいいのかな……」
 姉はすかさず、「あんた知ってる?」と不気味な笑みを漏らす。「今日は、あんたにとって超ラッキーな日なのよ」何のことだか、さっぱり判らなかった。「『エイプリルトゥルー』っていうのよ」――エイプリルトゥルー、そのどこか聞き覚えがあるようでないカタカナ語が私にどう関係があるのだろうか、いつもの姉のように自分に都合のよいことばかりが起こる言葉ではないだろうか、数秒の間に、普段の私では考えつかないくらいの想像が頭の中を駆け巡った。
「十二年に一度……自分の干支と同じ年のときね、その年の三月三十一日はエイプリルトゥルーって言って、心に思っていることを喋ると本当になる日なのよ」私は十二年間の人生でそんな素晴らしい日があることを知らなかったことに驚くと共に、その直後、モワモワと沸き立つものが生まれてきた。「私は十二歳のときは、メロンが食べたいって母さんに言ったら夕飯に出てきたのよ、二十四歳のときは、大好きな人に好きですって伝えたらその人と恋人になれたりね」
 メロンが食べたいっていうのは、単なるお願いにしか思えないけれども、そんな素晴らしい日があるのなら、使うにこしたことはない。私は、春珂君のことが好きだったが、別に恋人になりたいとまでは思っていなかった、ただ側にいてほしい、それだけだった。

 私は夕飯を食べ終えると部屋に籠り、姉の部屋から盗んできたファンデーションをうっすらと塗り、臨戦態勢に備えた。時計は既に二十時になっている。本当はもっと早く出かけたかったのだが、体と気持ちがなかなか仲良しになってくれなかった。そろそろ子供が外に出かける限界の時間だろう、私は母親に近くのスーパーまでお菓子を買いに行くと告げ、こっそりと家を出ようとした。姉はその姿を見逃すはずもなく、にんまりと笑顔を突きつけて、親指をまっすぐ立て私を見送った。
 いつもなら、学校に通うときに何気なく通る目の前の彼の家が、私には既に蜃気楼のように手が届かない場所にあるように思えていた。毎朝覗くたびに、彼は父親と口喧嘩をしている。話の内容は判らないが、きっと寝坊しただの、洋服が乾いてないだの、母親がいないことで起きている些細な「戦い」だったのだろう。それをいつもお祖母さんがなだめて送り出していたが、玄関先で私の顔を見つけると、何食わぬ顔をして「何見てるんだよ」とふっかかってくる。そんな姿さえも、四月からは見られないと思うと、彼への想いとは違った場所で胸が苦しくなってしまう。

��当小説に関するコメントは三月七日、全話終了後にお願いします)

APRIL TRUE/エイプリルトゥルー 第3話/全7話  

第1話:http://coney.sblo.jp/archives/20090301-1.html
第2話:http://coney.sblo.jp/archives/20090302-1.html

    APRIL TRUE ~エイプリルトゥルー~ 第3話/全7話      
                              古新 舜

 私はと言えば、あんな姉もいるくらいだからとりわけ家族で寂しい思いをした経験はなかった。両親も健在、祖父母も健在、ましてや曾祖父もといった大家族だったので、生活には不自由な部分があまりなかった。だからこそ、私の時間を『汚してくれるもの』の要素をいうのは、大いに不可欠な存在であったのだ。
 六年生も終わりが近づき、今年もまた一度目の冬桜の季節がやってきた。いつもならば雪が降ろうが校庭でサッカーボールを蹴り回っているのだが、最近は昔のようにはっちゃけた元気は見られなくなった。
「仕事の引継ぎとかがあって大変なんだってさ。婆ちゃんもさすがに荷造りまではできなくて。だから四月一日なんだって」そんな会話が彼の近くから聞こえてくる。《四月一日》――彼と過ごせるのはあと四ヶ月しかないんだ。そう思うと、私はその間、彼とどんなことをやり取りができるのだろう……と不安と共に焦りを感じていた。

 その限られた時間の中で、私は秘めた想いを告げるタイミングをずっと図っていた。毎日通う長い通学路や掃除当番で二人きりになった放課後、当番で給食を運んでいる廊下、だけれども私はどのタイミングでも小さな勇気を振り絞ることができなかった。その度に、雪桜のように嘘つきになれたらいいのにと臍を噛むのだった。
 そんなこんなで、あっという間に卒業証書を手にしていた私は、今の自分の気持ちと同じくらいちっぽけな姿をした学校を後にしたのだった。
 春休みの間は外に出ることもせず、一人部屋の中ですぐ近くにいる彼が何をしているかを想像していた。荷造りをしてるのかな、案外中学校の勉強をしてたりするんじゃないかな、とか。時々、うちの庭から彼の部屋を見上げては人影がいることで安心を覚えたりもした。そんなとき、ふと庭の冬桜が目に入る。まだ蕾のままであるこの樹がきっと今年は花の咲く前に、彼は東京に行ってしまうんだろうと思うと今にも涙があふれそうだった。
 そんな中、姉は卒業してから妙にふさぎ込んでいた私を、物陰から獲物を狙うように観察をしていた。そして、三月三十一日、私はいてもたってもいられなくなってリビングや玄関や二階を無造作に歩き回っていた。そこへ、ここぞと言わんばかりに不敵な笑みを浮かべ、姉は話しかけてきた。「あんた、なんか悩んでるんでしょ?」私は、限界の振り幅で首を横に振る。勝気な姉がこんな小さな私の気持ちを理解してくれるはずがない。すると、姉は上目遣いに少し考える仕草をしてこう言い放った。

��当小説に関するコメントは三月七日、全話終了後にお願いします)

APRIL TRUE/エイプリルトゥルー 第2話/全7話  

第1話:http://coney.sblo.jp/archives/20090301-1.html

    APRIL TRUE ~エイプリルトゥルー~ 第2話/全7話      
                              古新 舜

――「高橋春珂って、卒業したら東京に引っ越すんだってよ」
 六年生の二学期が始まった頃、私は学校でそんなことを耳にするのだった。小学生の私にとっては、こんな意外な出来事は、テレビで見ているニュースのように縁遠いものだと思っていた。それが数日経ち、本当に起きる現実だと受け止めたとき、胸が締め付けられるほどの息苦しさを覚えていた。
 春珂は私と同じクラスの生徒で、この小さな田舎町の、学年にクラスが一つしかないような学校で数名の同級生のうちの一人だった。性格は私とは正反対で、読書好きの私にちょっかいを出しては、いつも田んぼを駆け回っているようなやんちゃ坊主であった。家が隣同士ってこともあり、小さい頃から毎日のように一緒に学校まで通っていたが、とりわけ何かを話すわけでもなく、私は黙々と道を歩いていた記憶だけしかなかった。どこまでも変わらない景色を三十分かけて学校に向かう途中、彼は人の家の塀を平均台のように渡ったり、田んぼのあぜ道を反復横跳びのようにして跳ね回っていたが、私はそんな彼を取り分け構うことはしなかった。彼が嫌いということは全くなく、私にとって春珂は単なる一同級生に過ぎなかったのである。
 そんな彼をいつしか、そう、五年生の雪桜が咲いた冬の時期――彼の母親が長年の病で亡くなってから、彼に対して今までとは違った気持ちを持つようになった。それまで子供っぽくへらへらとしか見えなかった彼が夏休みの終わった頃からふと笑わなくなったのである。母親の葬式で彼が浮かべた表情を見て私は、今まで彼が見せていた明るい表情は、もしかしたら長らく病に臥せっていた母親に甘えられない彼の裏腹な感情ではないかとうっすら気づいたとき、同じ子供でありながら自分というものを使い分けて過ごしていた彼の妙に大人らしい部分に惹かれ――それからというもの、ずっと心のうちに彼を想うようになってしまったのだった。

��当小説に関するコメントは三月七日、全話終了後にお願いします)


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