APRIL TRUE/エイプリルトゥルー 第5話/全7話

第1話:http://coney.sblo.jp/archives/20090301-1.html
第2話:http://coney.sblo.jp/archives/20090302-1.html
第3話:http://coney.sblo.jp/archives/20090303-1.html
第4話:http://coney.sblo.jp/archives/20090304-1.html

    APRIL TRUE ~エイプリルトゥルー~ 第5話/全7話      
                              古新 舜

 玄関に立ち、何を口実に彼に話しかけよう、チャイムの「♪」に触れかかる人差し指が同極の磁石のような振幅運動をする。やっぱりだめだ、後少しの勇気を振り絞ることができず、後ずさりをしかけた。そのとき、突然ドアが開き、大きな陰が私の前を立ちはだかった。春珂の父親――彼をこんなにも間近で見るのは初めてだった。天から大きな石で押さえつけられるかのような圧迫感――金縛りのような対峙に私は口を開けることもできずにいた。「こんばんは。隣のお嬢ちゃんだよね」その姿とは真逆の優しい声に、私を締め付けていたものがゆっくりとほどけていく。「春珂、お客さんだよ」そういうと、父親は私の横を通って、視界から消えていった。その背中は一瞬だけ春珂の姿と似ているように思えた。「どうしたんだよ」振り返ると、そこには春珂がいた。私は今自分がどうしてここにいるかという理由が頭から吹っ飛んでいた。「あのぉー」と発するとそれにかぶさるようにして「あがれよ」と春珂は言った。私はその言葉に促されるまま、家の中に入っていった。
 家の中には、段ボールが山積みだった。「お父さんは?」と尋ねると「最後の挨拶に出かけた、朝まで帰ってこないって」とぶっきらぼうに返された。彼はそのまま二階にあがろうとしたが、三段くらい上ったところでそのまま階下まで下り、「俺の部屋汚いから、下で」と私の顔を見ることなく居間に通した。ひっそりとした居間には、ちゃぶ台と仏壇だけがひっそり置かれている。隣で婆ちゃんが寝ているから静かに、春珂は私にそう伝えた。
 春珂と私――扇形の面積がテストの答えで出てくるような奇麗な数字にはならない微妙な鈍角の位置で俯き合う。何の言葉も存在しない重たい時間が中央のちゃぶ台にデンとあぐらをかいて座っているようだった。こうして彼と二人でいることなんて、小さい頃から何度も、何遍もあったはずなのに、今日ほど彼を見つめるのが恥ずかしい時間はなかった。
――「おまえの母ちゃんってどんな感じだ?」突拍子もない質問で重たい沈黙が突き破られる。私はその質問にすがるようにして、すぐさま答えを発した。
「私の母は……いつも笑っているような人。とにかく前向きに考えるような……」彼はちょっと微笑むと、不意に庭の方に顔を向けた。彼の後ろには、仏壇に置かれた灰色がかった若い女性の顔が見える。輪郭と口元が彼にそっくりな母親の遺影だ。「母さん、よくこの縁側からおまえんとこの冬桜観てたよ」「えっ?」窓際まで歩いて行き、ここから本当にうちの樹が見えるかを確認してみる。暗がりの中、目を凝らしてみるとピンク色の小さなつぶつぶが星空のように輝いて見える。――今年もいつの間にか咲いてたんだ。

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閑話~幸せ物語アラヘン完了~

「April True」をご覧頂きありがとうございます。
毎日、多数アクセス頂いており、
自分自身が創作活動の根本であった執筆活動の一部を
こうしていろんな方に観て頂けることは、
大変光栄だと思います。

物を描くというのは、自分らしいとよく思います。
昨晩、凄くステキな方々と夕食をご一緒しましたが、
なぜ映画監督を目指したのかと訊かれて、
一番自分らしい生き方だからと答えました。

生きることはいろんな道を模索しながらだと思いますが、
僕自身もこの道にこれたのは、
裏切りだとか、だまされるとか、借金とか、
そんなことがあっても生きていたいと思う気持ちがあって、
ようやく自分らしくなれたと思います。

小学校や大学では、全く自分らしくなかったのに、
ふとしたきっかけで生きられていることは、
別れも含めたいろんな出会いに感謝をしたいと強く思います。

幸せ物語の劇中より、キャプチャーしました。

撮影監督さんと打ち合わせをして、大変好評価でした。
私も大変満足の行く作品になりそうです。
事務所、スタッフ、エキストラの方々に敬意と感謝を表します。

小説の閑話休憩として、静止画三枚、ご報告します。
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APRIL TRUE/エイプリルトゥルー 第4話/全7話  

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    APRIL TRUE ~エイプリルトゥルー~ 第4話/全7話      
                              古新 舜

「お隣さん、引っ越しするのかしらね。家の前を通ると忙しなくしているのよね」稲妻が頭からつま先まで貫通するような感覚だった。私は立ち尽くし、それを否定しようとする――と思いきや、胸に詰まった想いを吐き出すかのように、自然と姉にすがりついてしまった。「あたし、どうしたらいいのかな……」
 姉はすかさず、「あんた知ってる?」と不気味な笑みを漏らす。「今日は、あんたにとって超ラッキーな日なのよ」何のことだか、さっぱり判らなかった。「『エイプリルトゥルー』っていうのよ」――エイプリルトゥルー、そのどこか聞き覚えがあるようでないカタカナ語が私にどう関係があるのだろうか、いつもの姉のように自分に都合のよいことばかりが起こる言葉ではないだろうか、数秒の間に、普段の私では考えつかないくらいの想像が頭の中を駆け巡った。
「十二年に一度……自分の干支と同じ年のときね、その年の三月三十一日はエイプリルトゥルーって言って、心に思っていることを喋ると本当になる日なのよ」私は十二年間の人生でそんな素晴らしい日があることを知らなかったことに驚くと共に、その直後、モワモワと沸き立つものが生まれてきた。「私は十二歳のときは、メロンが食べたいって母さんに言ったら夕飯に出てきたのよ、二十四歳のときは、大好きな人に好きですって伝えたらその人と恋人になれたりね」
 メロンが食べたいっていうのは、単なるお願いにしか思えないけれども、そんな素晴らしい日があるのなら、使うにこしたことはない。私は、春珂君のことが好きだったが、別に恋人になりたいとまでは思っていなかった、ただ側にいてほしい、それだけだった。

 私は夕飯を食べ終えると部屋に籠り、姉の部屋から盗んできたファンデーションをうっすらと塗り、臨戦態勢に備えた。時計は既に二十時になっている。本当はもっと早く出かけたかったのだが、体と気持ちがなかなか仲良しになってくれなかった。そろそろ子供が外に出かける限界の時間だろう、私は母親に近くのスーパーまでお菓子を買いに行くと告げ、こっそりと家を出ようとした。姉はその姿を見逃すはずもなく、にんまりと笑顔を突きつけて、親指をまっすぐ立て私を見送った。
 いつもなら、学校に通うときに何気なく通る目の前の彼の家が、私には既に蜃気楼のように手が届かない場所にあるように思えていた。毎朝覗くたびに、彼は父親と口喧嘩をしている。話の内容は判らないが、きっと寝坊しただの、洋服が乾いてないだの、母親がいないことで起きている些細な「戦い」だったのだろう。それをいつもお祖母さんがなだめて送り出していたが、玄関先で私の顔を見つけると、何食わぬ顔をして「何見てるんだよ」とふっかかってくる。そんな姿さえも、四月からは見られないと思うと、彼への想いとは違った場所で胸が苦しくなってしまう。

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APRIL TRUE/エイプリルトゥルー 第3話/全7話  

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    APRIL TRUE ~エイプリルトゥルー~ 第3話/全7話      
                              古新 舜

 私はと言えば、あんな姉もいるくらいだからとりわけ家族で寂しい思いをした経験はなかった。両親も健在、祖父母も健在、ましてや曾祖父もといった大家族だったので、生活には不自由な部分があまりなかった。だからこそ、私の時間を『汚してくれるもの』の要素をいうのは、大いに不可欠な存在であったのだ。
 六年生も終わりが近づき、今年もまた一度目の冬桜の季節がやってきた。いつもならば雪が降ろうが校庭でサッカーボールを蹴り回っているのだが、最近は昔のようにはっちゃけた元気は見られなくなった。
「仕事の引継ぎとかがあって大変なんだってさ。婆ちゃんもさすがに荷造りまではできなくて。だから四月一日なんだって」そんな会話が彼の近くから聞こえてくる。《四月一日》――彼と過ごせるのはあと四ヶ月しかないんだ。そう思うと、私はその間、彼とどんなことをやり取りができるのだろう……と不安と共に焦りを感じていた。

 その限られた時間の中で、私は秘めた想いを告げるタイミングをずっと図っていた。毎日通う長い通学路や掃除当番で二人きりになった放課後、当番で給食を運んでいる廊下、だけれども私はどのタイミングでも小さな勇気を振り絞ることができなかった。その度に、雪桜のように嘘つきになれたらいいのにと臍を噛むのだった。
 そんなこんなで、あっという間に卒業証書を手にしていた私は、今の自分の気持ちと同じくらいちっぽけな姿をした学校を後にしたのだった。
 春休みの間は外に出ることもせず、一人部屋の中ですぐ近くにいる彼が何をしているかを想像していた。荷造りをしてるのかな、案外中学校の勉強をしてたりするんじゃないかな、とか。時々、うちの庭から彼の部屋を見上げては人影がいることで安心を覚えたりもした。そんなとき、ふと庭の冬桜が目に入る。まだ蕾のままであるこの樹がきっと今年は花の咲く前に、彼は東京に行ってしまうんだろうと思うと今にも涙があふれそうだった。
 そんな中、姉は卒業してから妙にふさぎ込んでいた私を、物陰から獲物を狙うように観察をしていた。そして、三月三十一日、私はいてもたってもいられなくなってリビングや玄関や二階を無造作に歩き回っていた。そこへ、ここぞと言わんばかりに不敵な笑みを浮かべ、姉は話しかけてきた。「あんた、なんか悩んでるんでしょ?」私は、限界の振り幅で首を横に振る。勝気な姉がこんな小さな私の気持ちを理解してくれるはずがない。すると、姉は上目遣いに少し考える仕草をしてこう言い放った。

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APRIL TRUE/エイプリルトゥルー 第2話/全7話  

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    APRIL TRUE ~エイプリルトゥルー~ 第2話/全7話      
                              古新 舜

――「高橋春珂って、卒業したら東京に引っ越すんだってよ」
 六年生の二学期が始まった頃、私は学校でそんなことを耳にするのだった。小学生の私にとっては、こんな意外な出来事は、テレビで見ているニュースのように縁遠いものだと思っていた。それが数日経ち、本当に起きる現実だと受け止めたとき、胸が締め付けられるほどの息苦しさを覚えていた。
 春珂は私と同じクラスの生徒で、この小さな田舎町の、学年にクラスが一つしかないような学校で数名の同級生のうちの一人だった。性格は私とは正反対で、読書好きの私にちょっかいを出しては、いつも田んぼを駆け回っているようなやんちゃ坊主であった。家が隣同士ってこともあり、小さい頃から毎日のように一緒に学校まで通っていたが、とりわけ何かを話すわけでもなく、私は黙々と道を歩いていた記憶だけしかなかった。どこまでも変わらない景色を三十分かけて学校に向かう途中、彼は人の家の塀を平均台のように渡ったり、田んぼのあぜ道を反復横跳びのようにして跳ね回っていたが、私はそんな彼を取り分け構うことはしなかった。彼が嫌いということは全くなく、私にとって春珂は単なる一同級生に過ぎなかったのである。
 そんな彼をいつしか、そう、五年生の雪桜が咲いた冬の時期――彼の母親が長年の病で亡くなってから、彼に対して今までとは違った気持ちを持つようになった。それまで子供っぽくへらへらとしか見えなかった彼が夏休みの終わった頃からふと笑わなくなったのである。母親の葬式で彼が浮かべた表情を見て私は、今まで彼が見せていた明るい表情は、もしかしたら長らく病に臥せっていた母親に甘えられない彼の裏腹な感情ではないかとうっすら気づいたとき、同じ子供でありながら自分というものを使い分けて過ごしていた彼の妙に大人らしい部分に惹かれ――それからというもの、ずっと心のうちに彼を想うようになってしまったのだった。

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APRIL TRUE/エイプリルトゥルー 第1話/全7話  

    APRIL TRUE ~エイプリルトゥルー~ 第1話/全7話      
                              古新 舜

 この土地の桜は嘘つきである。雪が降り積もる中、山間を背景にそっとピンク色の彩りを落とすのである。この地域ではよく知られた「冬桜」――春だけでなく、冬にも咲く変わった樹木である。雪景色に咲くその桜を町の人たちはこよなく愛し、町のシンボルとして崇めてきたが、小さい頃から私は、二回も咲くこの桜の奔放な姿にどことなく自分と似たような感じを覚えていた。
 冬桜は私の家の庭にも一本ひっそりとたたずんでいる。私には一回り以上年の離れた姉がいるのだが、彼女もこの桜の大ファンであった。年齢差のせいもあり(いや、半分以上は性格のせいだと思うが)いつも私は操り人形のように扱われていた。姉の代わりに買い物に行かされたり、掃除をさせられたり。「家の手伝いをした分、大人になったら倍になって良いことが返ってくるわよ」私はそれが姉の都合に合わせた出任せとも知らず、そんな素晴らしいことならばと、へらへら言われるがまま動いていた。小学生の私はそんなちょっと間の抜けた女の子だったのだ。
 小学五年生になって間もなく、私はそんな姉から突然、「好きな人はいる?」と尋ねられた。今までなら「あんた、学校でちゃんとやってるの?」、「あの掃除のおばちゃんまだ学校にいるの?」とたわいもない質問しかしてこなかった姉だが、そんな質問を急に振られ、私は小っ恥ずかしくなった。あの時なぜそんなことを尋ねたかはよく判らなかったが、今になると、きっと自分の恋に悩んでいたのだろうと思える。そして、五年生になった私が恋の話を持ちかけられるような“同性”に見えたのかもしれない。私は周りの子よりも少し幼いところがあり、十一歳になっていたそのときでも、答えとしてすぐに異性のことは思い浮かばず「校長先生が好き」などと答えてしまっていた。姉は素っ頓狂な顔を見せると、私の頭を軽く叩いて、口元を歪ませ向こうに行ってしまった。

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From the season with Sakura

YMF用長編映画企画が無事、提出終わりました。
企画コンペは、タイミングだと思います。
世の中とのタイミング、製作者とのタイミング、

何度も中断した企画が、ここまでの完成度で提出できることに、
続ける熱意が大切だなと思いました。

まさかこんな機会に、提出できるとは思ってもみなかった企画です。
後は、審査員の方もそうですが、私や仲間、
そして本企画に携わるであろう人たちとの
コミュニケーションだと思います。

低予算にしては壮大な企画ですので、
全力でぶつかっていくつもりです。

四月のJJFLAでの上映タイトルが決まりました。
From the season with Sakura
『サクラから始まる短編集』
となりました。

勿論、koganeyukiも含まれております。
時期が合えば、ぜひ向こうからレポートしたいと思っております。

四半世紀の夢

最終日になりました。
脱稿直前です。

脚本家と夕方からずっとMTG続き。
一番の争点でしたが、結論は「25年後の夢」を思いつき、
これで本当に完成になりそうです。

��5年後の夢かー、
僕は30歳まで生きられたら十分と思っているので、
そんな先のことまでは考えられないな。
もし長生きできたとしたらで、
��0歳の夢までありますけど。

さあ、朝までパソコンとのにらめっこでございます。
最近パソコンとのにらめっこ続きで少し疲れた感はあります。

映画祭に遊びに行きたい!
四月のロサンゼルスが次のお休みになりそうです。
今年もお花見はしましょうね!

手の感触

今年のテーマは「感触」

僕らは満たされすぎているとよく感じる。
感触を映画にしたいと思う。

むちゃくちゃな生活になってますが、
仲間から元気をもらってます。

生きるとは感触、触れることだと思う。

才能の集まり

原稿の〆切を前に、昨日は素晴らしい才能たちと、
夜を過ごしました。

大分前からの友人と、僕の友人と
��+4で行きつけの焼き鳥屋に。

天才プログラマー、
音楽プロデューサー、
産学ベンチャー社長、
売れっ子アニメーター、などなど。

みなさん僕と同い年ばかり、
これだけの英知が集まると会話も白熱します。

ジャンルを越えた集まりで、交流ができるというのは、
本物のプロだと思いました。

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志の強い仲間に囲まれることは、自身の背筋も伸ばされる感覚です。
前におちまさとさんのことを書いたときの「背筋」ですね。

明日が原稿〆切日。
先程、ストーリーが最終完成しました。
ここから企画書に落とし込んで参りたいと思います。

あ、それから三月一日から一週間、
僕のブログで最新作の小説を公開致します。
タイトルは「エイプリルトゥルー」。

どうぞ、お楽しみに☆